第3ステージでは、“群れの鳥の飛翔姿” を取り扱います。 それぞれの鳥の社会で、鳥の集団行動には様々な目的があります。 鳥の群れ飛行のパターンや 飛翔方法は、鳥の種類、集団行動の目的や飛行環境によって、多様に異なると考えられます。 それらの違いを確かめ、可能ならば分類することが望まれます。 力学的観点から最も関心のあることは、“空気を介しての多体間相互作用” によって、それぞれの鳥の飛翔にどのような影響が現れるかということです。 それは、それぞれの鳥にとって不都合なこともあり、逆に好都合なこともあるでしょう。 不都合なことがどのように回避され、好都合なことが どのように活用されているかを確かめておくことが重要です。 鳥の群れ飛行では、統制の取れた集団行動がしばしば見られます。 そのときの情報伝達や 即応する動作のメカニズムや特徴、言い換えれば それぞれの鳥の感知・判断・意思(脳・神経の作用)に基づく自律動作のメカニズムや特徴、を分析し解明することも重要です。 それは、鳥の群れ飛行のモデル化において欠くことのできない要素の一つです。
鳥の群れ飛翔の全体を彫刻で表すことは、彫刻技法の革新的な進歩がない限り、不可能です。 ここでは、必要最小限の鳥の数で、(時間的に変化する) 相対的配置および対応するそれぞれの鳥の体勢や動作によって、群れ飛翔の特徴やメカニズムを表す決定的瞬間の姿形を捉え表すことに挑戦したいと考えています。 そこに鳥の群れ飛翔について何か包括的な見解が開けてくることを期待しつつ。
1 大群で飛行するハマシギ (渡鳥/越冬期/移動)
2 バウンディング飛行するアトリの大群 (渡鳥/越冬期/移動)
3 高空で採餌するイワツバメの群れ (渡鳥/繁殖期(コロニー)/採餌)
4 強風に乗って海峡を移動するヒヨドリの群れ飛行 (留・漂鳥/移動)
5 藪の中を移動するエナガの群れ (留鳥/就塒)
6 初冬に行方不明の旅に出るスズメの幼鳥の大群 (留鳥/非繁殖期/移動)
7 黄昏に大群になって集団塒に向かうムクドリ (留鳥/非繁殖期/就塒)
8 敵の攻撃から逃避するシロチドリの群れ飛行 (留・漂鳥/非繁殖期/逃避)
9 晴れた日に海上を移動するヒヨドリの群れ-敵の攻撃からの逃避 (留・漂鳥/逃避)
10 餌場から飛び立つカワラヒワの群れ (留・漂鳥/非繁殖期/採餌)
11 斜列飛行で渡るマガモの群れ-V字型編隊羽ばたき飛行の力学的考察 (渡鳥/越冬期/移動)
12 海上をV字型編隊で移動するウミウの群れ (留・漂鳥/移動)
13 局地的上昇気流を利用して渡るサシバの群れ (渡鳥/繁殖期/移動)
14 黄昏に集団塒へ帰るユリカモメの群れ (渡鳥/越冬期/就塒)
15 夕方に集団塒へ向かうハシボソガラスの群れ (留鳥/就塒)
16 海上で採餌するウミネコの群れ (留鳥/採餌)
17 危険を感じて一斉に飛び立つドバト (留鳥/逃避)
18 オオタカを追い出すハシボソガラスの群れ (留鳥/追出し)
19 飛行訓練中のレースバトの群れ (留鳥/訓練)
20 強風の中で乱舞するトビの群れ (留鳥/遊びor訓練)
21 マナヅルの渡り (渡鳥/越冬期/移動)
22 ダイナミックソアリングで移動するアホウドリの群れ (漂鳥/非繁殖期/移動)
23 海上から飛び立つオオミズナギドリの群れ (漂鳥/非繁殖期/移動)
24 潜水魚狩りするオオミズナギドリの群れ (漂鳥/非繁殖期/採餌)
25 海上で採餌するアジサシの群れ (旅鳥/春・秋/採餌)
26 早朝に餌場へ向かうマガンの群れ (渡鳥/越冬期/移動)
27 ハシブトガラスの遊び-追かけ合い(留鳥/遊び)
28 群れで生活るオナガ(留鳥/移動)
29 塩分摂取のため海岸にやって来るアオバトの群れ(留鳥/採餌)
30 ツバメの渡り(渡鳥/移動)
31 トビを追い出すケリの群れ(留鳥/追出し)
32 ツバメの幼鳥の採餌訓練(渡鳥/訓練)
33 大集団塒へ向かう小集団ハクセキレイ(留鳥/移動)
34 流氷上で採餌するオジロワシとその獲物を横取りするオオワシ(渡鳥/非繁殖期/採餌)
35 シジュウガラとエナガの混群飛翔(留鳥/移動)
36 日本海を越えて渡って来るタゲリの群れ(渡鳥/越冬期/移動)
37 コロニーで生まれたウミネコの雛の飛翔訓練(留鳥/訓練)
38 ハシブトガラスに対するオナガのモビング(留鳥/追出し)
39 スズメの周遊(留鳥/遊び)
40 ユリカモメの空中採餌(渡鳥/越冬期/採餌)
退職後17年間は、単独の鳥の飛翔姿とその力学的考察に取り組んで来ました。 それに続き、群れの鳥の飛翔姿とその力学的考察を発展させて
来ました。
単独の鳥の飛翔では、それぞれの鳥の飛翔機能構造と非定常・3次元運動としての力学を理解することの重要さを認識しました。 鳥の飛翔の力学的要点は
つくば観音台展示室の掲示パネルに纏められています。 鳥の飛翔方法と分類、
飛んでいる鳥に作用している力、(従来考えられて来た)揚力を発生させる方法、有限幅の翼によって生じる渦跡、羽ばたき飛行のメカニズム、
鳥と空気の動きの多重構造、鳥の飛翔に必要な力学的条件、エコ飛行の方法、垂直尾翼なしで自由に方向を変える技、です。
群れの鳥の飛翔は、鳥の集団性行動の一部ですが、実に多様です。 それらを分りやすく分類する方法は、まず、集団性行動の種類について分類し、次に、
それぞれの鳥の社会で異なる 群れの鳥数、飛行パターンや飛翔方法の特徴に従って区分するのがよいと考えられます。 それらの多様性は、それぞれの鳥の
社会での遺伝的な習性の違い、進化による大きさ(体力)、飛翔機能構造や脳・神経の働きの違い、さらには、飛翔環境の違いによってもたらされます
(補足③参照)。彫刻では、それらの代表的な場面を取り上げて
来ました。 今後、これらの場面の動画やデジタルカ―ビングへの発展が期待されます。
群れの鳥の飛翔の力学は、自律動作する個体の集団と空気から成る混相流の問題として考えると 分かりやすく、正確な力学的基礎関係式が表示できます。
また、Boid モデルや 鳥どうしの衝突を防止・緩和するメカニズムなど、混相流で知られているモデル化の手法や基本的な特性を、群れの鳥の飛翔に適用
することも可能です。 しかし、正確な議論は、混相流の複雑さに加えて、それぞれの鳥の感知・判断・思考(脳・神経の働き)に基づく多自由度の
自律動作といった内容が複雑で表示が難しい要素を含むため非常に難しくなります(
補足①参照)。 今後、コンピュータのさらなる向上や新しい発想に基づくモデル化の発展が期待されます。
① 大群で移動する鳥の飛行 - 力学的取扱
② 群れ飛行の多様性 - 群れ飛行の分類方法への手掛り
③ 群れ飛行の種類と分類についての考察
④ 鳥の群れ飛行の分類表