⑨ 晴れた日に海上を移動するヒヨドリの群れ-敵の攻撃からの逃避

 低空を飛んでいる鳥が高空を飛んでいる鳥を捕獲するためには、高度差に対応する位置エネルギーを得るために、力の負担・エネルギーの消費が必要になります。  位置エネルギーを運動エネルギーで賄うとすれば、その分飛行速度は低下します。 (高速で飛行する)ガンやカモが、外敵の襲撃を避けるため、高空を高速で渡るのも、この理由から来ていると考えられます。

 一方、高空を飛んでいる鳥が 低空を飛んでいる鳥を捕獲するためには、高度差に対応する位置エネルギーを捨てるために、やはり、力の負担・エネルギーの消費が必要になります。 位置エネルギーを 運動エネルギーに変換すれば、飛行速度は増大します。 これは、逃走のスピードアップには好都合でしょうが、獲物の捕獲には不都合なことが多いでしょう。 スピードの出過ぎは飛行のコントロールを難しくし、 まかり間違えば 水面や地面に激突する破目に陥るでしょう。 ヒヨドリやシギ・チドリが水面や地面すれすれの低空を、高速で、水面や地面に接触することなく巧みに飛行する技を身につけているのも、この理由 から来ていると考えられます。 事情は 我々が坂道を駆け上がるときや駆け降りるときと同様です。

 バウンディング飛行は、連続羽ばたき飛行に比べて省力・省エネルギーであることが知られています。 その分、スピードアップや飛行の持続に活用できるでしょう。 バウンディングによる上下揺動は、その周期 や振幅を不規則に変化させて、敵の標的を眩ませ、敵の標的から逃避することができるでしょう。 また、バウンディングに左右への方向転換を加えて、捕獲されようとする寸前に、複雑な身のかわし方ができる でしょう。 

2014年6月制作、実寸、1号


 晴れた日に、凪いだ海上(中空)を飛行(移動)していたヒヨドリの大群が、ハヤブサなどの出現を感知して、その急降下攻撃を避けるために、海面すれすれの低空までいっきに降下する様子を記録した 写真(和田剛一、WING 野鳥生活記、小学館、1955)は、上で述べた理由を実証するものとして、また、統制のとれた集団行動の一つとして、さらに、様々な急降下飛行のオンパレードとして、特に、鳥の場合 失速墜落や錐揉み落下が急降下飛行の一種であることを示す証拠として、注目されます。 翼および尾はできるだけ小さくすぼめて空気の抵抗を減らし、安定性の保持や進行方向修正のための操舵に用い られています。 ヒヨドリの腕は短いので見分けにくいのですが、翼のすぼめ方には “前向き腕での折り畳み”と“後向き腕での後方流し”の二通りが見られます。 前者はバウンディング飛行で、後者は羽ばたき 飛行の引き上げ行程で見られる、いずれも空気抵抗を最小に抑えるスタイルであると言えるでしょう。

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