①~⑩ では、小型の鳥の群れ飛行を取り扱ってきましたが、小型の鳥の群れ飛行はひとまず置いて、中型の鳥の群れ飛行に進むことにします。
中型の鳥の群れ飛行は、やはり、渡リや漂鳥の移動で考えられます。 まず思い浮かぶのは、(視界のよい)満月の夜に、(外敵の襲撃を避けるために、また、一様で強い 風が吹く)高い空を、(追い風に乗って)雲の流れる方向に、(曳航渦を相殺し、省力・省エネのために)V字型編隊を組んで、飛んで行く雁の群れではないでしょうか。
下節で説明されるように、V字型(斜列)編隊羽ばたき飛行する鳥は、長腕で、2点ヒンジの羽ばたきをする鳥に限られると考えられます。 ステージ2で取り上げた(長腕の) マガンやウミウ、そして(比較的腕の長い中腕の)マガモ、このステージで取り上げる大型で長腕のマナヅルも、その代表的例と言えるでしょう。 ⑪および ⑫では、中型の鳥の 代表的な例として、また、空気を介しての多体間相互作用を巧く利用した例として、鳥の数を増やして、改めて制作しておきたいと思います。 作品では、誘導抵抗(誘導速度) を低減するような相対的配置や、必要最小限の揚力を維持し 必要最小限の力の負担エネルギーの消費をもたらすような 2点ヒンジの羽ばたきを表現しようとしています。
2014年10月制作、1/4縮尺、1号
V字型(斜列)編隊飛行の力学については、既に ステージ2(表題 ⑩ 渡り途上のマガンの羽ばたき飛行、補足
② 渡りでの省力・省エネルギー飛行、など)で詳しく議論しましたが、渡り鳥は全てV字型(斜列)編隊飛行をするのではなく、長腕で(次列風切羽の枚数が
多い)、2点ヒンジの羽ばたきをする鳥に限られると考えられます。 その理由は、この羽ばたきでは、打ち下ろし-引き上げの全行程を通して ほぼ一定の揚力が作り出され、
そのために翼端から曳航渦(自由渦)が絶え間なく流出するといった特徴があります(推力は断続的に発生していることに注意)(有限幅の翼によって生じる渦跡 参照)。 羽ばたきの全行程を通して必要最小限の揚力を
作り出すことは、(特に長距離を飛行する体重の重い水鳥にとっては、)省力・省エネルギーの点から有益ですが、曳航渦は誘導抵抗を発生
させるという欠点があります。 V字型(斜列)編隊飛行は、左と右の翼端から出る相互に反対方向の曳航渦を隣り合わせの鳥どうしで重ね合わせて相殺し、誘導抵抗(誘導速度)を
抹消する(有効推力や有効揚力を増大させる)効果があると考えられます。
長距離行動-省力・省エネルギー型の飛行では、羽ばたきの振幅が必要最小限に小さなことに加えて、このような 2点ヒンジの羽ばたきでは翼端の
上下変動も1点ヒンジの羽ばたきに比べて小さくできること、したがって、曳航渦の蛇行も小さくなることにも注意すべきです。
羽ばたきの位相を前を行く鳥の翼端経路に同調させれば(前を行く鳥の羽ばたきに従って上下・左右に蛇行する
曳航渦の痕跡に合わせれば)、曳航渦の相殺はさらによくなるでしょう。
①や②でも見たように、鳥間の相互作用が 鳥の羽ばたき方や相対的配置 にも関係することに注意すべきです!