翼幅が有限の翼が一様な気流中に置かれたとき(翼幅の有限な翼が静止気体中を一定速度で 動き出したとき)、話題2で翼幅の無限な翼について述べた、翼まわりに循環のある流れと後方へ押し 流される循環のある流れは、ケルビンの循環定理に従って、翼端やその付近から流れ出る渦束によって 結び付けられます(図7)。 翼のまわりの循環のある流れを構成している渦は束縛渦、翼端やその付近 から流れ出る渦束を構成している渦は自由渦とよばれています。 渦の方向は、渦の回転方向を右回り ネジの回転方向に合わせたときネジの進む方向にあると定義されます。
図7
束縛渦と自由渦で囲まれた領域では下方へ向かう流れが生じます。 その結果、翼にあたる 流れは一様流から下方に曲げられ、その速度は一様流の速度と自由渦による下向きの速度(誘導 速度)の合速度となります。 この合速度に対して翼に作用する力は合速度に直角な方向にあるので、 それは一様流に直角な成分と平行な成分をもつことになります(図8)。
図8
一様流に直角な成分は揚力ですが、一様流に平行な成分は、自由渦から誘起されて生じた抗力で あるので、誘導抵抗とよばれています。 誘導抵抗を減らすためには、翼のアスペクト比を大きくしたり、 翼端から流れ出る自由渦を拡散させて、自由渦によって誘起される下向きの速度を小さくする工夫が 必要になります。 実際に、鳥は翼の形や初列風切羽の形を変えて誘導抵抗を節減する工夫をして います。 アホウドリの翼の大きなアスペクト比やワシ・タカ科の鳥の翼端付近の段刻羽弁のある初列 風切羽の分離して上に反り隙間のできる形状や構造はそのような例であると考えられています。翼幅が有限の翼が周期的に上下に動く場合(例えばタンチョウの羽ばたき飛翔)、翼を打ち下ろす とき束縛渦は有限の値をもちますが、翼を引き上げるとき束縛渦は消えます。 束縛渦の消滅は、 打ち下ろすときと反対の渦が重なったと考えればよろしい。 こうしてできる渦は翼端から流れ出て図9a に示すような長方形の渦輪の列を作ります。 さらに、反対向きの渦は互いに消し合いますから、図9b のような四角形の渦輪ができることになります。 四角形の渦輪の内側では下向きの流れが生じ、外側 では上向きの流れが生じています。
図9a(上)、図9b(下)
次列風切羽をほぼ水平に保持して揚力を持続させ、初列風切羽を羽ばたいて推力を発生させる ような羽ばたき飛行では、翼端から持続的に流れ出る自由渦の上に渦輪が重なった状態になります。 群で飛ぶ(編隊飛行する)鳥は、前を行く鳥が作り出す自由渦の内側の下降気流を避け、外側の 上昇気流を利用しているとも言われています。 群で飛ぶ鳥の制作では、鳥達の相対的な配置や 羽ばたきの位相にも注意したいものです。