話題5. 横揺れを安定化し・きりもみ墜落を防ぐ機構、対応する飛翔姿

 例えばトビの帆翔のように、鳥が翼を水平に広げて滑空しているとき、翼は胴体の上部に位置して いるので、重心は翼の下方に位置しています。 一方、翼に作用する力の作用点(圧力中心)は広げた両翼 の中央で、重心の真上にあり、翼に作用する力の垂直成分は重力と釣り合っています(図10a)。  いま何らか原因で(例えば大気の乱れによって)左に少し傾いたとすれば、翼に作用する力の垂直成分と 重力は偶力となって、翼の傾きを元に戻すように作用するでしょう(図10b)、つまり横揺れを安定化させます。

 図10a(左)、図10b(右)


 鳥が広げた両翼を上に傾けて滑空すれば、重心は翼の下方にありますが、翼を上に傾けた分だけ 少し上に移動するでしょう。 一方、翼に作用する力の作用点も翼の中央より上方に移動するでしょう(図11a)。  翼の重さが比較的小さく、翼の傾きが比較的大きければ、重心と翼に作用する力の作用点の間の距離は 長くなって、より大きな復元力を与えるでしょう(図11b)。 乱れの大きな気流に乗って帆翔するトビやノスリが 両翼を上に傾けている姿はその例と考えられます。 翼を傾けた場合、翼に作用する力の垂直成分(揚力) が減少することも考慮に入れておかねばなりません。 比較的穏やかな上昇気流に乗って帆翔している トビが広げた両翼を水平にしているのは、安定性よりも少しでも小さな降下速度(高い揚抗比や低い滑空速度) を得ようとしているからではないでしょうか。

 図11a(左)、図11b(右)


 鳥が広げた両翼を下に傾けて滑空しているとき、重心は翼を下げた分だけ翼の中央から下方に 移動するでしょう。 一方、翼に作用する力の作用点も翼の中央より下方に移動するでしょう(図12a)。  翼の重さが比較的小さく、翼の傾きが比較的大きければ、重心と翼に作用する力の作用点の間の距離は 短くなって、復元力も小さくなるでしょう(図12b)。 このため安定性は悪くなりますが、逆に操舵性は よくなります。 帆翔している鳥が方向を変えるとき、両翼を下に傾けるのは操舵性をよくするためだと 考えられます。  一方、カワセミやハヤブサが急降下するときのように、次列風切羽に作用する揚力だけ で十分なときは、初列風切羽を畳んで下に傾け重心を下げることによって、安定性を強めていると考え られます。

 図12a(左)、図12b(右)


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