⑩ 渡り途上のマガンの羽ばたき飛行

制作:2007年6月、縮尺:1/2(先行の雄は後行の雌より110%大)

 渡りでの省力・省エネルギー飛行については、補足②で総括的に説明されています。 渡り途上のマガンの羽ばたき飛行の特徴については、 写真(例えば、山渓カラー名鑑 日本の野鳥、1994、山と渓谷社、83頁)やテレビの映像、流体力学の理論(準定常・2次元翼の理論)などから、以下のような推測ができます。

 まず、羽ばたきの打ち下ろし角度および引き上げ角度は、かなり小さいことが見て取れます。 ガンは、ダイサギ と同様に長腕裂翼の鳥で、羽ばたきは 2点ヒンジ(肩と手首の関節)の屈伸で行われ、引き上げ行程は2つの行程、行程①と行程②、から構成されていると考えられます。 行程①では、次列風切部分だけが引き上げられ、初列風切 部分はほぼ次列風切部分の外端の速度で上方へ平行移動されていると思われます。 こうすることによって、負の推力は最小限に抑えられるでしょう。 引き上げ行程では、飛行方向に対する 翼の傾きは自然に増加されるので、揚力は維持されていると考えられます。 行程②では、次列風切部分はほとんど停止した状態で、初列風切部分だけが引き上げられていると思われます。  こうすることによって、初列風切部分だけに作用する負の推力は最小限に抑えられるでしょう。 一方、打ち下ろし行程では、初列風切部分と次列風切部分はほぼ真っ直ぐに伸ばされるでしょう。  このとき、飛行方向に対する翼の傾きは各断面での打ち下ろし速度に比例して自然に減少されるので、境界層の剥離は防止され、大きな推力が作り出されると考えられます。 このような 羽ばたき方は、タンチョウやダイサギなどの長腕裂翼の鳥にも共通した動作のように思われます。

 雁の渡りで有名なV字形編隊飛行で、先頭を行く鳥や隊列から外れた鳥は、より大きな推力を必要とするので、上に述べた行程の全てを履行していますが、編隊飛行で後続する鳥は、 誘導抵抗の低減によって、引き上げ行程②の一部または全部を省略している様子が見られます。 このため、また 羽ばたきの角度や周期、打ち下ろし時間が小さいこともあって、一見 折り曲げ た翼の1点ヒンジの羽ばたきのように見えます。 満月の夜、流れる雲の方角に、V字形編隊を組んで渡って行く雁の群れは あまりにも有名な風物詩です。 “荒城の月”で歌われている渡り行く 雁の情景が心に浮かびます。 


 

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