有限幅の翼によって生じる渦跡
有限幅の翼が一定速度で動くとき、流体力学の定理(ケルビンの循環定理)によって、
翼まわりの循環流は最初に後方へ押し流される循環流と曳航渦束で連結される。
翼まわりの循環流と曳航渦束で囲まれた領域では、下向きの流れ(誘導流れ)が生じ、
翼を過ぎる流れは翼前方の流れと誘導流れの合流となる。 翼に生じる力はこの合流
の速度に直角なため、翼の動く方向に抗力(誘導抵抗)が生じる。
誘導抵抗を減らすために、翼のアスペクト比(=翼幅/翼弦)を大きくしたり(例:
アホウドリ)、翼端の羽根先を細くして分裂させ上に反らせて流出する曳航渦を拡散
させたり(例:ワシ・タカ)している。
羽ばたき飛翔の場合は、羽ばたきの周期が 翼まわりの循環流が発生・消滅する時間
に比べて 十分大きい大型や中型の鳥では、以下のようになるでしょう。
有限幅の翼が上下に動き(羽ばたき)、引き上げ行程で翼まわりの循環流が消える
場合は、打ち下ろすときと反対方向の渦が重なったと考えればよい。 その結果、
曳航渦はリング状になって、後下方へ離れて行く(例:ハト)。
有限幅の翼が上下に動く(羽ばたく)場合でも、長腕で2点ヒンジの羽ばたきをする鳥
(例:渡りでのツル・ガン)では、翼まわりの循環流は 羽ばたきの全行程を通して ほぼ
一定に保持され、最初に後方へ押し流される循環流と (羽ばたきに合せて蛇行する)
曳航渦束で連結される。 この場合は、V字型(斜列)編隊飛行をして、左右の翼端
から流出する互いに反対方向の曳航渦を隣り合わせの鳥同士で重ね合わせて相殺し、
誘導抵抗を抹消することができる。
有限翼が上下に動き(羽ばたき)、引き上げ行程で 翼まわりの循環流が ある程度保持
される場合は、引き上げ行程で保持される循環流に対応する(羽ばたきに合せて蛇行する)
曳航渦束 と、“打ち下ろし行程で発生した循環流-引き上げ行程で保持される循環流”に
対応する(後下方へ離れて行く)リング状の渦束が発生すると考えられる。
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