つくば観音台展示室ホームページ
鳥の彫刻
ー日本の野鳥の飛翔姿ー
森岡 茂樹
展示・公開の趣旨
日本には、奈良 橿原の四条遺跡の円墳から ほぼ完全な形で出土した木製の翼を水平に広げた鳥の彫刻(6世紀前半)、京都
宇治平等院鳳凰堂棟上に降り立つ一対の鳳凰の彫刻(11世紀初頭)、京都 西本願寺 対面所の欄間を飾る 雲間を飛ぶ鴻の鳥の透かし彫り(16世紀後半)、日光 東照宮
陽明門の袖垣・回廊の外壁を飾る飛び立つ水鳥や渦・波・流れなどの彩色された透かし彫り
(17世紀前半)、高村光雲の繊細な羽根や羽軸・羽枝を表現した矮鶏や飛び立つ鷹の彫刻(19世紀後半)など、先駆的な、美術工芸としての“飛翔姿の鳥の彫刻”の歴史があります。
今回、私の“飛翔姿の鳥の彫刻”に対する理念は、20世紀に著しい発展を遂げた、飛翔の力学、複合系や多重構造現象の見方や取扱い方、形の科学や色彩の科学などの知識を通して、日本で見られる野鳥の飛翔姿を具に観察し、それらの特徴や
真実に悖らない美を 立体造形として表現することです。
定年退職後ゼロから出発したので、まだ発展途上にあると言えるでしょうが、余命も少なくなり、増える作品の整理・収納を兼ねた展示室を設け、公開することにしました。 現在50余の作品は、飛翔の方法に従って分類され配置されています。 それぞれの作品には、飛翔の方法を示す表題と共に、簡単なメモ(それらの特徴や関連した話題など)を添えています。 また、鳥の飛翔は本来非定常・3次元の運動であるべきことを念頭において、飛翔姿を理解する上で必要と考えられる事項を簡潔に説明したパネル10枚ほどを適当な場所に掲示しています。 これらの作品やパネルは、全体として、鳥の飛翔とは何たるかを問い質そうとしています。
デジタルカービングの時代が近づき、それに対応する研究・開発がいろいろな分野で始まっています。 やがて、“飛翔姿の鳥の彫刻”にも、新しい技術的改革のときがやって来ると思われます。 そこでも、今回のような鳥の飛翔姿に対する見方や取扱方が役に立つことを期待しています。
制作を始めて17年が過ぎた時点で転機が訪れました。 単独の鳥の飛翔から群れの鳥の飛翔へ発展させることです。
それぞれの鳥の社会では、情報の共有、外敵からの防衛、仲間同士の助け合いなどのために、単独ではなく、集団で行動しています。 群れ飛翔は 集団行動の一部
ですが、実に多様です。 それを分類する方法は、まず、集団行動の種類について分類し、次に、それぞれの鳥の社会で異なる 群れの鳥数や飛行パターン、飛翔の
方法 によって再分類するのがよいと考えられます。
群れの鳥の飛翔の力学は、自律動作する個体の集団と空気から成る混相流の問題として考えると分り易く、正確な力学の基礎関係式が表示できます。 混相流で
知られている モデル化の手法や 基本的な特性を 群れの鳥の飛翔へ適用することも可能です。