日本の“飛翔姿の鳥の彫刻”の歴史


① 古墳の埴輪 (大和朝廷時代)

   (金鵄・八咫烏の伝説)
   奈良県橿原市 四条古墳から出土した鳥形木製品(鳶の帆翔に似る)
   奈良県広陵町 巣山古墳から出土した水鳥(白鳥)の埴輪

   要人・墓・神仏を守る“守護神”の象徴、 この世からあの世へ魂を運ぶ“天国の使者”
   の象徴、 葬儀や墓を飾る“装飾品” として採用されたと考えられる。

   鳥の重心に支柱を取り付け飛翔姿を表現している。

   (奈良県明日香村 キトラ古墳壁画の朱雀(<鳳凰)、(白鳥の離水姿に似る) )
   奈良県 薬師寺 本尊薬師如来像台座の朱雀の浮彫

   中国・韓国の仏教美術の影響を受ける。


② 寺院・仏閣の棟上の鳳凰 (平安時代中期)

   京都府宇治市 平等院鳳凰堂棟上の一対の鳳凰
   京都市 鹿苑寺金閣棟上の鳳凰(雉の離陸姿に似る)
   京都市 慈照寺銀閣棟上の鳳凰

   鳥の形態的特徴や動きの特徴が表現されている。

   岩手県平泉町 中尊寺金色堂格狭間鏡板の孔雀文(平安時代後期)
   金銅透彫尾長鳥唐草華鬘(鎌倉時代)


③ 神社・仏閣の内陣・外陣の欄間・腰羽目の透かし彫り (江戸時代前期)

   滋賀県竹生島 宝厳寺唐門 蟇股の尾長鳥
     (旧大阪城極楽橋一階北側部分から 京都豊国神社極楽門を経て 移築)
   京都市 西本願寺対面所欄間の鴻の鳥、白書院欄間の雁

   栃木県日光市 東照宮薬師堂外陣欄間の不死鳥(極楽鳥)
   京都府八幡市石清水八幡宮幣殿欄間の極楽鳥・孔雀
   栃木県日光市 東照宮奥社に通じる坂下門前の回廊潜門の蟇股の眠り猫と飛び戯れる雀
   (ホバリング姿)
   栃木県日光市 東照宮陽明門袖垣・回廊外壁の様々な飛翔姿の水鳥(離・着水姿)や
   渦・波・流れ など

   想像の鳥から実在する鳥へ。
   鳥や動物をモチーフとした藝術的表現、動きの力学的表現、配置場所に対する鳥の選択が
   見られる。


   京都市 新町 綾小路下がる (祇園祭)船鉾 舳先の金色の鷁(鵜に似た想像上の水鳥)
   野々村仁清の色絵雉子香炉(江戸時代前期)
   徳川家定(13代将軍)遺愛の岩に鷹の棚飾(幕末)


   欧米のリアリズムの影響を受ける。


④ 近代彫刻から現代彫刻へ

   高村光雲の矮鶏 (明治22年)、松樹鷹 (大正13年)
   鈴木長吉の銅鷲置物(明治26年)    
   鈴木長吉の制作監督による十二の鷹(明治26年)
   山田鬼斎の鷲の浮彫 (明治28年)

   制作や装飾の大衆化、用途の多様化が始まる。

   形態学・生態学の発展に伴ない、鳥の形態・生態を正しく表現する。
   力学の発展に伴ない、鳥の動きを正しく表現する。


   写真機器・工作機具の発展に伴ない、微細形状・多重構造を表現する。
   デジタル機器の発展に伴ない、精確化・ロボット工作へ。


   それぞれの変遷の背景には、素材や工作技法の革新が見られる。

  日本の「鳥の彫刻」の歴史を顧みるとき、外国の影響を強く受けた時期もありましたが、
  鳥本来の特徴である飛翔姿の彫刻が多く、身近で見られる野鳥を具に観察して、それら
  の動きが表現されたと見られ、力学的要点が正しく表現されていることに驚かされます。



これら彫刻の写真は、関連した資料と共に、隣室に展示しています。

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