⑲ 飛行訓練中のレースバトの群れ

 レースでは、鳩舎から最長可能距離にある放鳩地点から、最短時間で、最適コースを通って、外敵の襲撃を回避し、安全・確実に帰還する能力が競われます。 このために、高空を高速で 長時間飛行する体力や、省力・省エネルギー飛行の技、また、方位や適切なコースを選ぶ感知・判断・思考の能力を養う訓練が必要です。

 幼鳥からベテランのレーサーに成長させるために、これらの鳥の混成群による様々な訓練が行われています。 レースバトは野鳥ではありませんが、鳥どうしの見よう見まね・以心伝心 のトレーニングや 感知・判断・思考に基づく自律動作(鳥の脳・神経の働き)がどのように行われているかを確かめ、それを彫刻で表現することに関心があります。 これは 多かれ少なかれ 一般の野鳥にも通じるものと思われます。

 レースバトの高速飛行の方法については、ステージ1⑧レースバトの羽ばたき飛翔で詳しく述べています。 レースバトは、翼の打ち下しによる推力 だけでなく、翼を引き上げるときにも、初列風切羽の後ろ払いによって推力を補い、時速60km/hを越える高速で飛行すると言われています。 後ろ払いの過程では、初列風切羽の分離して 隙間のできた翼列構造が重要な役を演じています。 彫刻では、後ろ払い完了直後、打ち下し後半、引き上げ前半、後ろ払い開始直前の飛翔姿が示されています。 後ろ払い途中の飛翔姿は 上記⑧で見ることができます。

2015年11月制作、縮尺1/2、1号

 優れたレースバトの育成方法は、優れた人材の育成とよく似ています。 まず、素質のある(血統がよく、能力があると見込まれる)ハトを集め、集団訓練をします。  このとき、その中の特に素質の優れたハトが感知・判断・思考・行動の先駆者(先導者)となり、他のハトはそれを追いかけて(見習って)上達して行くといった構図になっていると言える でしょう。 育成の過程で先駆者の存在は極めて重要であると思います。 訓練には、基本(出舎・帰舎・体力・方向測定など)、 片道通信、往復通信、移動通信、夜間通信などがあり、いずれも食欲、夫婦・親子の絆、集団性、帰巣性などを利用して企画・実行されています。 それらの詳細は、例えば,宇田川竜男、 レースバトの飼い方と訓練法(鶴書房、1965)(国立国会図書館で 閲覧・コピー可能)でも詳しく知ることができます。

 一方、野生の鳥では、訓練を企画・教育するものはありませんが、親・先輩・素質の優れた仲間の感知・判断・思考・行動を見習って育成されて行くと考えられます。

 なお、レースバトとドバトの形態上の違いは、外観的にはほぼ同じですが、選抜されたスポーツ選手のように、精悍さが違うと言われています。  具体的には、強化された 骨格、脚、鼻瘤、嘴,眼環、翼 羽並 などに見られます。

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