① 大群で飛行するハマシギ

 冬鳥として日本へやって来るハマシギは、小型の鳥で、ときには数千羽もの大群で、全ての鳥が連続羽ばたき飛行で、移動することが知られています。 密集した大群飛行で接触衝突 事故が発生しないのは、異常接近した鳥どうしに挟まれた空気が逃げ出すときの抵抗によって接触衝突にブレーキが掛かるからだと考えられます。 それは、固気流動層で、気流中で 激しく揺動する多数の粒子が接触衝突しないのと同じメカニズムです。

 鳥の場合、魚の場合と違って、重力に対抗できる浮力が存在しないので、重力に対抗する揚力を得るために、絶えず下降気流が作り出されています。 この下降気流は、 他の鳥の飛行にとって不利になります。 このために、それぞれの鳥は他の鳥の後方近くを避けて飛行するべきでしょう。 鳥の群れが横に広がって飛行する傾向も、 これから来ているように思われます。

 ハマシギの大群飛行では、横並びになって、上下に重なり合って、同じ周期・位相で羽ばたき飛行する小集団が随所に見られます。 横並びになって翼の先端部分が 重なるほど接近して飛行すれば、翼端損失が軽減され、揚力を向上させる可能性が考えられます。 上下に重なり合った飛行態勢では、上側の鳥の打ち下ろしは下側の鳥の 打ち下ろしの力の負担を軽減し、また、後方へ押やられる気流の速度を上げ、推力の増加をもたらす可能性が考えられます。 水面や地面の近くでは、以下で述べる表面効果 によって、その効果はさらに高まるでしょう。 これは、空気を介しての多体間相互作用を巧く利用している例と言えるでしょう。 解析的な証明が期待される問題です。

 一方、水面や地面の近くでは、下降気流は水面や地面に行く手を阻まれ、停滞・増圧を余儀なくされるでしょう。 これを利用して先行する鳥の後に続けば、 先行する鳥が引き連れる気流や自身の表面効果も加わって、エコ飛行につながる可能性も出てくるでしょう。 鳥の群れが水面や地面の近くを飛行する傾向も、これから 来ているように思われます。



2013年2月制作、実寸、1号
(横並びに重なり合ったサブグループの連続羽ばたき飛行)







2012年11月制作、実寸、1号
(群列の統制のとれた方向変換)



2012年12月制作、実寸、1号
(瞬時・一斉に行われる方向転換)


 鳥の群列が障害物に近づくとき、障害物に近い鳥達は、それを避けるために進行方向を変え、横隣りの鳥を押し退けたり、後続の鳥の進路を阻んだりしなければ なりません。 この押し退けたり阻んだりする動きは速やかに他の鳥にも伝達し、一見統制のとれた方向転換をしているように見えるのではないかと思われます。 それぞれの鳥の 方向転換は曲がろうとする側と反対側の翼を大きく打ち下ろす(大きく羽ばたく)だけで十分でしょう。 統制のとれた方向転換は、この動作を前列の鳥から後列の鳥へ 進行速度に合わせて伝達して行けば、実現されるでしょう。 家畜の羊を放牧場へ誘導するとき、駆け行く群列の方向を変えるときと同じ要領であると思われます。

 また、何かにきっかけ(例えば、敵の襲来を告げる鳴き声)で、群れの大多数の鳥が、ほぼ同時に、同じ側の翼を大きく打ち下ろせば(大きく羽ばたけば)、群れの鳥は 瞬間的に一斉に方向変換ができるでしょう。 (聞き逃した鳥も、大多数の鳥の動きに押されて、強制的に方向変換させられるでしょう。) このとき、各鳥の飛行体勢は 横方向に傾き、曲がる側では一斉に背中を見せ、その反対側では一斉に白い腹を見せるでしょう。 ハマシギの場合、翼開長が比較的大きく、全長から嘴と尾の長さを 引いた値は比較的小さく、体重が比較的軽く、翼を打ち下ろす筋肉の瞬発力は強いと考えられるので、“翼端部で作られる旋回方向のモーメント/慣性能率”の値は大きく、 切れのよい方向変換が実現されると考えられます。 ⑧ 敵の攻撃から逃避するシロチドリの群れ飛行 もご覧ください。

 上に述べた二つは、鳥の群れ飛行での統制のとれた方向変換の有力な方法であると考えられます。


 補足の ①大群で移動する鳥の飛行‐力学的取扱 もご覧下さい。

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