話題8. 翼列としての初列風切羽、その有効な配列

 秒速 2m の気流が弦長 2cm の翼(初列風切羽)を過ぎって流れるとき、例えば、ノスリが斜面上昇 気流に乗ってハンギングしているとき、流れのレイノルズ数は 2500 程度で、流れは層流であると 考えられます。 したがって、翼の失速を引き起こす境界層剥離は層流剥離であると考えられます。  大気分子の平均自由行程は 0.18μm 程度で、翼面上の境界層の厚さはその 100~1000 程度に 薄いと考えられます。

 翼上面の境界層の外縁で、圧力は一様流の圧力より低く、前縁から後方へ進むにつれて増加します。  一方、流速は一様流の流速より速く、前縁から後方へ進むにつれて減少します。 これに対して、 翼下面の境界層の外縁では、圧力は一様流の圧力より高く、前縁に近いよどみ点から後方へ進むに つれて減少し、流速は一様流の流速より遅く、よどみ点から後方へ進むにつれて増加します。 境界層剥離は圧力の増加や流速の減少が大きくなる翼上面の後部で発生します。 そこで、翼上面後部 での圧力の急な増加や流れの急な減速を抑制することによって境界層剥離を遅らせることが考えられます。

 翼列や複数翼の隙間を利用して流路の広がりを制限し、流量保存の条件から流速の急な減少を 抑制し、同時に、ベルヌーイの定理に従って、圧力の急な増加を抑制して、翼面上で境界層の剥離を防止する 方法が考えられます。 例えば、同じ形の薄翼を2つ上下平行に置いた場合(図14)、翼間の流路内の 流れは広がることを制限され、下の翼の上面の流れの剥離は抑制されるでしょう。

 図14

 上の翼を後方へずらし、迎角を少し大きくしても(図15)、下の翼の上面後部の流れの急な減速 (圧力の急な増加)は抑制されるでしょう。 このような仕方で翼を配列していくと、境界層剥離が起こりにくい、 迎角・反り・翼面積の大きな複合翼が構成されるでしょう。 翼端に近い初列風切羽は、その横に伸びた配置、 段刻や小さな外弁/内弁比によって、このような‘翼列効果’を作り出すのに都合よくできていると考えられます。  小翼羽にも、話題7で述べた弱い乱れの導入とともに、このような翼上面後部での流れの急な減速や 圧力の急な増加を抑制し、境界層剥離を防ぐ効果があると考えられています。 それは‘前縁スラット効果’ として知られています。 

 図15





 鳥の初列風切羽の翼列構造の重要な役割は、境界層剥離が生じない迎角・反り・翼面積の大きな 翼を作り出すこと以外にも、レースバトの引き上げ-後ろ払いスズメのホバリングセグロセキレイの羽ばたき 加速飛行などで見られるように、鳥が羽ばたき飛翔で初列風切羽を引き上げるとき、風切羽の重なり方や その小さな外弁/内弁比によって自然に形成される翼列構造によって、正の推力や揚力を作り出したり、 負の揚力を抑制し、正の推力を助長させるといった重要な役割もあります。

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