話題3で示されているように、物体(鳥)が何らかの方法で周囲の流体に運動量を与えるならば、 その反作用として、物体は流体から力を受け、その大きさは物体が単位時間に流体に与えた運動量 の大きさに等しく、その方向は与えた運動量の方向と反対の方向にあります。 鳥が風のない空気中で 停止しているためには、単位時間あたり重力に等しい大きさと方向をもつ運動量の気流を作り出す ように翼を動かせばよろしい。 動かし方は自由ですが、簡単な動作により、鳥の体力の範囲内で、 翼に負担のかからない省エネルギーの方法がよいことは言うまでもありません。 前進する場合は、 翼を広げただけで、翼のまわりに発生する循環を利用して空気を掻き下ろして行く“滑空”の方法が、 最も負担の少ない省エネルギーの方法であると言えます。
スズメは、体を立てた姿勢で、まず、翼を後上より前下に打ち下ろし、前下方へ向かう気流 を作り出します。 次に、翼を畳むように(上向きの流れを作り出さないように)途中まで引き上げ、 そこから初列風切を勢いよく後方に払います。 このとき一枚一枚の羽が分かれて裏返しになり、 翼列を形成し、後下方へ向かう流れを作り出します(吉良幸世、鳥の飛行、生物大図鑑 鳥類、 1996、世界文化社)。 スズメの風切羽の特に小さな外弁/内弁比は、このような羽ばたきを裏付ける もので、このような羽ばたきに都合のよい構造になっていると言えるでしょう。 平均して真下へ向かう 重力に対抗する運動量をもつ気流が作り出されます。 打ち下ろすときには翼の(話題2の図5で揚力と抗力の合力が上方より少し後方へ傾くような迎角での) 揚力と抗力を利用し、引き上げるときは分離した羽の(小さな迎角での)揚力を利用していることに なります。 この場合、翼や羽列の圧力中心は羽ばたきによって振動し姿勢を崩す恐れがありますが、 広げた尾で抵抗する気流を作り、姿勢を保持していると考えられます。
制作:2002年10月、実寸(全長=14cm、翼開長=23cm)
同上作品を別方向から見る
しかし、このような方法は、動作は簡単ですが、力の負担が大きいと考えられます。 R マクニール アレクサンダー (東昭 訳) “生物と運動 バイオメカニックスの探求” に出てくるシジュウカラのホバリングのように、 翼まわりに発生する循環を利用したアンダースローの打ち下ろし(前方への行程)と、揚力を生じない 2点ヒンジの引き上げ(後方への行程)の方が、動作は複雑になりますが、力の負担は小さいと考え られます。 いずれにしても、短腕・小型の鳥の羽ばたき飛翔では、非定常・3次元流れの効果が影響 している可能性が高く、それはより小さな力の負担で、定常・2次元流れを仮定した翼理論から予想 される揚力よりも大きな揚力を与えている可能性が高いと思われますが、実験や数値解析などによる その証明は難しい問題です。
この作品では、分離した羽根を彫る代わりに、分離した羽根を根元で接合する方法を
試みました。
子供の頃、団扇を左右に動かして扇ぐと、こん炉の口から空気が押し込まれることや、
公園でブランコを漕ぐとき、各スイングの中程で腰を下げると、揺れが大きくなっていくことなど、
不思議に思ったことがありました。 力学を学んだ人であれば理由は分かっているはずですが、
扇いでいる団扇の変形や、ブランコを漕いでいる子供のポーズを表現する上では、決定的な
要素となります。 これは鳥の飛翔姿についても言えることですが、それぞれの飛翔方法
を特徴づける各部の形状とともに、それらから生じる力やモーメントの全体としてのバランス、
安定性などを考えなければならないので、ことが面倒になります。