⑫ ヒバリの垂直上昇/ホバリング

 野外での観察や写真集で見る限り、ヒバリは体を常にほぼ水平にして、翼を下に傾けた状態で、 小刻みに羽ばたいてホバリングしているように見えます。 この場合、シジュウカラのホバリングの ような羽ばたき方は、発生する水平力を消す方法から考えても無理なように思われます。

 スズメのホバリングでも述べたように、ヒバリが体を常にほぼ水平にした状態でホバリングや垂直上昇を するためには、その状態での羽ばたきによって重力に打ち勝つ運動量の下向きの気流を作り出さねば なりません。 いくつかの可能性のある方法は、まず、翼を上に凸(下に凹)の形にして上・下に(または 後上・前下に)振動させると、平均して下向きの気流が発生するでしょう。 打ち下ろすとき (手首のヒンジ によって)翼の曲率を小さく(水平翼面積を大きく)し、引き上げるとき 翼の曲率を大きく(水平翼面積を 小さく)すれば、下向き気流の運動量は増加するでしょう (この動作は自然に実現されると思われます)。  打ち下ろし速度を速くし、引き上げ速度を遅くしても、下向き気流の運動量は増加すると考えられます。  また、打ち下ろし角度を大きくして、左右の翼に挟まれた空気を下方へ押し出し、引き上げるとき 風切羽 にできる隙間から空気を逃がしても、下向き気流の運動量は増加するでしょう。 下に傾けた翼を振動 させて、団扇で風を起こすように、斜め下に向かう気流を発生させることもできるでしょう。 ヒバリの ホバリングや垂直上昇では、これらの方法の全てが総合的に用いられているのではないか思われます。 小さな翼面荷重、やや長い腕、幅が広く・外弁/内弁比の小さな初列風切羽、先が凹み・幅が広く・ 羽軸の曲がった次列風切羽といった、ヒバリの翼や羽の特徴 (笹川昭雄:日本の野鳥 羽根図鑑、1995、 世界文化社)は、これらの方法で下向き気流を作り出すために有利にできているように思われます。  果たしてこのような方法で体重を支える揚力が得られるかどうか、力の負担に耐えられる体力(筋力)があるか どうか、大気の流れが関係しているかどうか(この場合には、風上に向かう 羽ばたき低速飛行によっても ホバリングできるでしょう) は疑問ですが、いずれにしても 非定常・3次元性の効果が大きな役を演じている と考えられます。 ヒバリのホバリングや垂直上昇の高速度写真やシミュレーション解析が期待されるところです。 

制作:2003年4月、実寸(全長=17cm、翼開長=32cm)

 ヒバリは茨城県の県鳥です。 私の第二の家は茨城県つくば市にあります。 春から初夏に かけて聞かれるヒバリの囀りは、都市開発によって年々減っていますが、家の隣にある農林省の 実験農場ではまだ聞くことができます。 高いところで囀りながらホバリングしているヒバリを 双眼鏡で見ていると、かなり激しく上下に揺動しています。 この揺動は、ドップラー効果として、 妙なる囀りの音色にも関係しているように思われます。

 2000年、実験農場内にゲノム解析センターが建設されてから、ヒバリの囀りは聞かれなく なりました。 時代の移り変わりを実感させられます。




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