鳥は、離陸(離水)するとき、持てる能力の全てを演出するので、その姿形は力学的にも 非常に興味があります。 鳥が翼のまわりに自然発生する循環を利用して離陸/離水するときには、 翼にあたる気流の速度が臨界速度(重力に対抗する揚力が得られる最低速度)以上にならねば なりません。 このとき鳥は臨界速度を得るために様々な方法をとります。
ハクチョウやタンチョウのような大型で長腕の鳥は、翼を速く動かすことができず、また、翼面荷重 が大きく、臨界速度も大きいので、推力を羽ばたきとともに足蹴りで稼ぎます。 言替えれば、航空機と 同じように、臨界速度に達するまで助走します (ジャンボジェット機では、新幹線の速度位の臨界速度 に達するまで助走しなければなりません)。 コハクチョウは、推力を最大にするため、全開した翼を 少し後方上から前方下へ勢いよく打ち下ろします。 このとき、動きの比較的小さい次列風切羽は 最大の迎角にし、動きの大きい初列風切羽は境界層剥離を防ぐために少し前方へ傾けています。 翼端近くの両弁に段刻のある初列風切羽は分離して 上に反り、(自然に)隙間が生じます。 これは 誘導抵抗(話題4)を減少させ、翼列の効果(話題7)を生み出していると考えられます。 広げて下に傾けた尾は 小さいながらもフラップ効果を作り出しているでしょう。 また、水掻を一杯に広げた足で勢いよく水を蹴り、 後ろへ押しやる水の運動量(したがって、その反力として得られる推力)ができるだけ大きくなるように するでしょう。 足の姿形はコハクチョウに固有な足の骨格寸法とそれらの可動範囲から決まります。 加速運動している(慣性力が作用している)ので、足の平均支点は重心よりやや後方にあります。 なお、足を前方へ十分伸ばすことができない鳥は、その分だけ体を立てた姿勢をとるでしょう。 翼を引き上げるときに足で水を蹴れば、連続した推力が得られるでしょう。
制作:2003年6月、縮尺:1/2(全長=120cm、翼開長=177cm)
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白鳥(しらとり)はかなしからずや空の青海のあをにも染まずただよう(若山牧水歌集“海の 声”)。 ハクチョウにもあてはまる環境イメージではないかと思います。