助走せずに、水面から直接飛び立つマガモ(一般に淡水ガモ類)は、翼を後上から前下へ打ち 下ろすことによって、翼を過ぎる初期の流れを作り出しています。 (準定常・2次元流れを仮定して) 翼を打ち下ろすとき、初列風切は最大揚力が発生するような迎角をとると考えられます。 このとき、 毛羽立った前縁羽や小翼羽は弱い乱流境界層を誘導し、境界層の剥離を防いでいると思われます。 翼を側方から前方へ打ち下ろす行程では、翼は(その骨格の機構により)外から回り込む(掌を合わせる) ような格好になり、左右の翼に働く推力は相殺される傾向にありますが、揚力は保持されています。 さらに左右の翼の接近に伴い下方へ押しやられる空気は揚力を増加させることでしょう。 これは、水平 飛行時に推力を増すため、空気を掻くような仕草で曲線的に打ち下ろすのとは対照的です。 進行方向 (水平方向)の速度はこのような羽ばたきによって次第に増加して行くでしょう。 翼を過ぎる初期の流れ を大きくするために、マガモは風上に向かって飛び立ったり、水掻を広げた足で水面を蹴ったりもします。 緊急離水するときの姿については⑮キジバトのところで述べられています。
制作:2003年10月、縮尺:1/2(全長=61cm、翼開長=99cm)
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1996年秋、栃木県塩原温泉へドライブ旅行した帰り道、日塩もみじライン、霧降高原道路を経由 して日光東照宮へ立ち寄りました。 東照宮の陽明門の袖垣・回廊の外壁は、色々な鳥の透かし彫から 構成されていて、あたかも木彫りの鳥の展覧会場といった趣があります。 (袖垣・回廊の腰羽目に水鳥や水辺の草花を彫刻するのは火防の意味があると言われている) 水鳥に対しては、渦、波、流れ と言った添景が彫ってあって、美術では鳥や魚に動きの効果を与えるものだと言われています。 力学的にみると、流れ、渦、波は流体の3つの代表的な運動であり、鳥が飛び立つときや降り立つとき、 どのような大気や地・水面の条件を利用しているか、また、そのとき大気や水面にどのような変化が起こる かを、近くの水面や草木の特徴ある動きによって表現するといった技法が示唆されているように思われます。 実際には、それらの動きが力学的に正しく表現されたときにのみ、その場独特の雰囲気や音の響きを 感じさせるのだと思います(醍醐寺三宝院の狩野山楽による襖絵の風にざわめく柳のように)。 ついでに、 左甚五郎の作と伝えられる奥宮(家康の墓)へ通じる坂下門の蟇股の眠り猫とその裏側に彫られた飛び 戯れる2羽のスズメ、瑞花瑞鳥という今までの通念を打破した自由と創造、世の中の平和を訴える作品の 構成と表現もまた(作品の置所とともに)、動物彫刻に関心をもつ人々に多くの規範と示唆を与え てくれます。