鳥の緊急離陸に対応する簡単なモデルの力学の問題を考えてみましょう。 鳥の質量を M とし、 翼の打ち下ろしによって一定の大きさで上向きの力 F が時間 τ の間作用すると仮定します。 鳥(質点) に対する力学の第2法則は Ma=F-Mg のように表すことができます。 a(=dv/dt) は鳥の加速度、g は重力 の加速度を表しています。 これから、鳥の速度は v=(F/M-g)t のように表され、t=0 で v=0 から t=τ で v=(F/M-g)τ≡V まで増加することがわかります。 さらに、時間 τ の間に鳥が上昇する高さは X=(F/M-g)τ・τ/2 であることがわかります。
次の打ち下ろしが始まるまでの間、力学の第2法則は a=-g のように表されると仮定します。 これから、v=V-gt が得られ、t=V/g≡σ で速度が 0 になり、σ の間に上昇する高さは Y=Vσ-gσ・σ/2 であることがわかります。 速度が 0 になったちょうどそのとき 次の打ち下ろしが始まるとすれば、 最初の打ち下ろしが始まってから次の打ち下ろしが始まるまでの間に、鳥は X+Y=(F/2Mg)(F/M-g)τ・τ の高さまで上昇することになります。 F≧2Mg のとき、σ≧τ に注意しましょう。 以上の結果から、 大ざっぱに言って、鳥は、翼の打ち下ろしによって体重の 2倍程度の力を作り出し、打ち下ろし時間と 同程度の時間内に、上向きの気流をなるべく発生させないように(例えば、デービット・アッテンボローの “鳥たちの私生活”に出てくる上昇するクジャクバトの連続ストロボ写真とその説明のように)翼を引き上げる ことができれば、これを繰り返すことによって高度を上げて行くことができます。 例えば、体重の2倍の 大きさの力を作り出すことができた場合、落下のときと同じ加速運動が上向きに実現されることになります。 実際に、鳥が離陸するときの連続ストロボ写真があれば、鳥の重心の位置の移動から、鳥の加速度や 鳥が作り出している推力(足や翼がどの程度の推力を分担しているかなど)を知ることができるでしょう。
これは正にロケットの打ち上げの力学です。 翼を打ち下ろすことによって得られる力の大きさ(ロケット の推力) F が鳥の体重(ロケットの重さ) Mg より大きい場合にだけ鳥(ロケット)は離陸できます。 また、 上昇速度および上昇距離は F-Mg に比例して大きいことを示しています。 つまり、翼の打ち下ろしで発生 する力 F が大きく、体重 Mg が小さいほど、上昇速度および上昇距離は大きくなります。 τ は一段目 ロケットの噴射時間、σ は二段目ロケットに切り替わるまでの時間に対応しています。 翼の最初の打ち下ろし と並行して行われる地面の足蹴りによる力は、補助ロケットの推力に対応していると言えるでしょう。 翼の打ち 下ろしで発生する力 F は 翼が打ち下ろしによって周囲の空気に与える運動量の大きさを打ち下ろし時間で 割った量で与えられ、それはロケットが単位時間に噴射するガスの運動量の大きさに対応しています。 このために鳥は出来るだけ多量の空気を出来るだけ速い速度で真下に押し出さなければなりません。 体力(筋力)が持続できる間に安全な高度に達しなければならないことは、ロケットの推力が持続できる間に 周回軌道や重力圏外へ達しなければならないことと同じであるといえるでしょう。 キジバトの緊急離陸で述べた‘真上での叩きと開き・強力な打ち下ろし・尾と連携した真下での打ち合わせ’ はそのような姿であるといえるでしょう。