急降下は加速運動です。 進行方向は、目と嘴の先と魚を結ぶ直線の方向にあると考えられ ます。 魚の動きに即応するためには(操舵の切れをよくするためには)、翼を下げ、圧力中心を 重心に近づけておくのがよいでしょう。 下に傾けた初列風切は、操舵とともに、姿勢を安定に 保持する作用もあると考えられます。 揚力は、迎角だけでなく、進行方向、進行速度、翼の下げ 方や広げ方によっても変化します。 揚力は迎角とともに増加しますが、同時に抗力も増加するので、 抗力を小さくするためには、迎角はできるだけ小さくするべきです。 迎角による揚力の調節は 制御性にも問題があるように思われます。 これらのことから、加速するにつれて翼をすぼめること によって揚力は一定に保たれていると考えられます。 これは、翼をすぼめて水中に突入する姿勢 につなぐためにも合理的です。 尾には進行方向に直角な力が作用してはなりません。 加速度 (慣性力)を大きくするためには、空気抵抗を小さくする必要があります。 これらのことから、尾は 畳んでおいた方がよいと考えられます。
1995年10月、実寸(全長=17cm、翼開長=25cm)
撓みを防ぎ、存在感を弱くするため、支柱には剛性率の大きい
(できるだけ細い)透明なガラス棒を用いています。 支柱は重心を通る垂直線にそって取り付け
られています。 これは、重心に乗った座標系で、重心に相対的な運動や、力・モーメントの
バランスを表現するといった力学の手法に従うもので、等速/加速/減速運動に特有な姿勢を
表現するのに適当であると考えられます。 鳥の体の一部を何かに接触させて固定すると、
実際にはその点に力が作用し、鳥はそれに反応した姿勢をとるので、(接触点に作用する力を
含めて、鳥に作用する力やモーメントのバランスがとれていなければ、)接触していることがわから
ない特定の方向以外からは不自然な姿に見えます。 視方向を制限すると3次元空間の造形の
意味が失われます。 鳥が獲物を運んでいるときの飛翔姿についても同様な注意が必要です。
台座の色はそれぞれの野鳥の環境をイメージしたものです。 一般にイメージは、制作者
と観賞者では、過去の思い出や得られる情報の違いによって、異なるでしょう。 例えば、ゴミの
山に群がるカモメの映像しか見ていない人に、童謡“カモメの水兵さん”や牧水の歌“白鳥は悲し
からずや~”に出てくるカモメのイメージを与えるこのはとても難しいことだと思います。
とりあえずここでは清流をイメージし、モデリングペーストやグロスポリマーメディウムを用いて
水面の凹凸や輝きを作り出すことを試みています。 カワセミ清流に翔ぶ(嶋田忠写真集)が強く
印象に残っています。