第1ステージで “ウミスズメの水中飛翔” を取り上げました。 そのとき説明したように、 密度の高い水中では、負担のかかる初列風切羽は小さくすぼめて後方へやり、次列風切羽が推力 や正・負の揚力を作り出しました。 これに対して、密度の低い空中では、大きく広げた初列風切羽 および次列風切羽が、それぞれ、推力および揚力を主として作り出しています。
ウミスズメが海面すれすれに飛行するとき、翼が掻き下ろして行く空気の下向きの流れは海面で 跳ね返り、翼下面の空気が圧縮されて、揚力が大きく増加します。 これは、表面効果(地面効果、 水面効果)としてよく知られ、利用されています。 表面効果は、ウミスズメが海面に近づくほど大きく なります。 このため、ウミスズメが海面すれすれに飛行していても、海面に衝突することは自動的に 避けられるでしょう。 一方、境界近くの渦・循環の運動に関する力学の定理(鏡像の理論)から、抗力 は減少すると考えられます。 これらによって得られる高い揚抗比は、大きな翼面荷重をもつウミスズメ にも、海面すれすれに飛ぶことによって 低速飛行の可能性を与える と思われます。
第1ステージの ⑲モズの着陸 に関連して注意したように、 地面に投げ上げ着陸するカラスが 地面すれすれまで滑空降下して 着地点に近づく場合にも、 表面効果が失速速度を低くするのに寄与していると思われます。
水中での操舵は、水掻きのある比較的大きな足によって行われましたが、空中の操舵でも、 水掻きを一杯に広げた足は、アホウドリのように、小さな尾による操舵性の悪さを補っていると考え られます。 特に、表面効果の存在下では、翼を傾けることができないので、操舵はもっぱら足の ひねりに頼らざるを得ないでしょう。 水面との接触を利用すれば、切れのよい操舵も可能でしょう。
制作:2005年10月、実寸
最近、人工飼育され、放鳥(2005年9月24日)されたコウノトリが話題に なっています。 日本に棲息していたコウノトリが絶滅したこともあってか、従来のコウノトリの翼の 特徴 (大型・長腕裂翼・比較的小さな翼面荷重)、離陸・着陸の方法(木の上の巣/地上 から・へ)、 空中での飛行方法(羽ばたき/滑空) についての記述や映像は少なくありません。 そして実際に、人工 飼育され、見習う親や先輩がいないコウノトリがどのような飛翔方法を示すかには興味があります。 しかし、発信機を背負い、色々な識別環を付けたコウノトリが大勢の人が見物している中で飛翔する姿は、 痛々しくて、自然の美しさは感じられません。 これもまた“人と鳥の共生”の一場面なのでしょうか。