⑥ オオミズナギドリの荒れた海での離水

 日本動物大百科 3鳥類Ⅰ には、オオミズナギドリに関して、「うっそうとした樹冠が島からの飛び出しを さまたげるため、スダジイやタブなどの傾斜木の太い幹に爪をたて、翼を半開きにしてよじ登り、飛び立つ習性 を発達させた」 という説明が、その写真とともに載せられています。 これは、オオミズナギドリが離陸するとき、 位置エネルギーの利用を知っていることを端的に示しています。 力学的エネルギー保存の定理から、 v・v=2gh (v=速度、h=落差、g=重力加速度~10m/s・s) の関係が得られます。 例えば、落差 2m のとき、 秒速 6m ほどの速度が得られます。 向かい風があれば、その風速を加えた速度が初速度となります。

 位置エネルギーに加えて、足で木の幹を後方へ蹴った場合、運動量の変化と力積の関係から、v= αgΔt の速度が加わります。 αg は足蹴りによる作用時間Δt の間の平均作用力で、αは体重に対する 倍率を表しています。 例えば、足蹴りによって体重の2倍の力が 0.2 秒間作用したとすれば、秒速 4m の 速度が加えられるでしょう。 さらに、羽ばたきでβg の(周期平均)推力が作り出せるとすれば、v=βgT の 速度が加えられるでしょう、T は羽ばたきの周期を表しています。

 オオミズナギドリが海上から飛び立つ場合、海面が穏やかなときは、羽ばたきながら助走して飛び立つ ことができるでしょう。 羽ばたきながら助走して飛び立つ場合は、1回の足蹴りで得られる速度と、1回の羽ば たきで得られる速度の合計に、羽ばたきの回数(~足蹴りの回数)を掛けた値が臨界速度を越えれば、飛び 立つことができるでしょう。 しかし、強風で白波が立ち 助走できないときは、強風(~臨界速度)に向かって 浮き上がるように、また、風はそれほど強くないが うねりの波が大きいときは、うねりの波の頂きが来たとき 足蹴りや うねりの斜面を駆け下りるようにして(足蹴りと位置エネルギーを利用して)、飛び立つことが観察され ています。 羽ばたきによる推力を加えることもできるでしょう。 



制作:2005年12月、縮尺:1/2(全長=49cm、翼開長=120cm)



 オオミズナギドリは京都府の府鳥です。 “オオ(大)”が付いていますが、 オオミズナギドリは 全長=49cm、翼開長=112cmで、ハシブトガラス(全長=57cm、翼開長=105cm)と 同程度の大きさの、アホウドリとは同目の鳥です。

 

 翼を広げた鳥の剥製でも見られるように、鳥が翼を広げて横に伸ばしたとき、初列風切羽は下に少し凹の反った形になります。 翼を打ち下ろすとき、または、帆翔のように下からの気流を受けるとき、初列風切羽の先端部分は、空気の抵抗を受けて、上に凹の反った形に変形します、また、翼を引き上げるときは、逆に下に凹の反った形に変形します。 打ち下ろす(引き上げる)速度が大きいほど、それらの変形は大きくなります。 打ち下ろす速度が非常に大きい場合には、巧く配列された初列風切羽の長さや撓みの違いによって、前縁に近い初列風切羽は分離して隙間のできた状態になります。 初列風切羽のこれらの形状の違いによって、翼が上下いずれの方向へ動いているか、または、止まっているか、また、その速度がどの程度に大きいかを判断することができます。 もし、彫刻で、最も目に付く初列風切羽の反りの方向を間違えるようなことがあれば、理解できない不自然な姿形になることでしょう。



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