京都の鴨川にはドバトが生息し、その数は年々増えています。 そのドバトが着陸時に見せる、 広げた翼を独特に振動させる動作は、アホウドリの場合と同様に、減速によって低下した揚力を補充する ためであると考えられます。 このような動作で揚力が補充されることは“振動翼の理論”によって証明できますが、そのメカニズムは、力学の定理(話題2)「一様流中に置かれた翼に作用する揚力は、翼の形(迎角・反り・厚み)が一定のとき、一様流の速さの2乗に比例して大きくなる」 が 羽ばたく翼に対しても成り立つと仮定すれば、容易に知ることができます。
流速 U の一様流中に置かれた翼を速さ u で前後に振動させると、翼にあたる流速は 翼を前に 動かすときは U+u 、後へ動かすときは U-u となります。 それゆえ、1周期にわたる流速の2乗の 平均は U・U+u・u に比例して大きくなり、上の定理に従って、揚力も増大します。 また、流速 U の一様 流中に置かれた翼を速さ v で上下に振動させると、翼にあたる流速の2乗は常に U・U+v・v ですが、 入射流に対する翼の傾き(迎角)は翼を下へ動かすときと上へ動かすときでは異なります。 そくで、 上へ動かすときには翼を回転させて、下へ動かすときと同じ迎角にすれば、1周期にわたる推力は相殺 されますが、揚力は一定に保持されます。 このような前後の振動と上下の振動を組み合わせれば、 さらに大きな揚力を得ることができるでしょう。 いずれにしても、振動の速さ(振幅×振動数)の2乗に比例して 揚力が増加すること、また、推力は生じないことに注意しましょう。
ドバトが着陸体勢に入ると、尾を広げて下に傾けフラップ効果を作り出し、モーメントのバランスを とるために少し前へ伸ばした次列風切羽の迎角や反りを最大にして揚力を高め、小翼羽やケバ立った 前縁羽によって弱い乱れを導入して境界層の剥離を防ぎ、初列風切羽を上に述べたような方法で振動 させて揚力を補充していると考えられます。 初列風切羽の小さな外弁/内弁比や振動に伴って発せられる 摩擦・接触音は、上下振動の上向き行程において、自然に翼列が形成され、各羽が回転されることを示唆 しています。 ドバトの着陸姿は,逆噴射するジェットを用いて、月や火星に軟着陸する着陸船の姿を連想 させてくれます。
制作:2005年6月、実寸