テレビなどで、強風や吹雪の中を風に向かって勇敢に羽ばたき飛行するカモメの姿を ときどき見かけます。 強風や吹雪の中を飛行する日本で見られるカモメの種類は、シロカモメか ワシカモメではないかと思われます。 荒れた日が続く北極圏やユーラシア北部から北東部にかけて 生活するかれらにとって、食料を確保するためにはやむを得ない行動ではないかと言われています。 しかし、その飛翔姿には、自然の風洞実験を見ているようで、興味がもたれます。
カモメは、アホウドリと類似した長腕・尖翼の海鳥で、普通は、ゆっくりした羽ばたきで直線飛行し、 その速度は秒速10m余りであることが知られています。 それゆえ、風速がこれ以上になれば、 羽ばたき停止飛行か 羽ばたき後退飛行を余儀なくされるでしょう。 これより強い風に向かって前進 するためには、① 推力を上げる、② 抗力を下げる、③ 風が弱まったとき高度を上げておいて、 風が強くなったときには高度を下げて、羽ばたき飛行速度を補う、といった工夫が必要になるでしょう。 アホウドリのように海面風境界層を利用することも考えられます。
推力を上げるには、羽ばたきの振幅や羽ばたき数を上げ、引き上げ時間を短縮すればよいわけですが、 それ以外にも、 初列風切羽を流れに平行に置いた平板翼として羽ばたけば、揚力は相殺されますが、推力を連続して 発生させることができるでしょう。 さらに初列風切羽を回転させて、打ち下ろすときは正の迎角に、 引き上げるときはゼロ以下の迎角にすれば、もっと強い推力が得られるでしょう。 一方、次列風切羽は、 迎角・反りのある翼として、揚力を連続して発生させることができるでしょう。 両翼を下方に凹に湾曲させ ているのは、翼を打ち下ろすときの推力の補強、翼を引き上げるときの揚力の補強や力の負担の軽減に 加えて、上のような形の翼を作り出すのに都合がよいと思われます。
カモメの首の短いずんぐりした紡錘形の体は、耐久力のある筋肉や内臓を保温のよい厚い羽毛で 包み、空気の抵抗を最小限に抑えていると思われます。 さらに、引っ込めた足、反りのない初列風切羽 や反りの小さい次列風切羽は、抗力の節減に寄与すると思われます。 翼を少し畳み掛けた状態に して、翼角を突き出し、翼を後退翼の形にしているのは、抵抗を小さくし、翼の構造強度を高め、 また、羽ばたきの振動数を上げるためにも有効であると考えられます。 吹雪の中では、雪をはじき流す 表面の性質は、雪による抵抗を最小限に抑えることでしょう。
飛行速度を変えるときの特徴は、漁船や観光船について来て、ときには追い越し、ときには後退する カモメからも見れるやも知れません。 実際に、テレビの映像や野外での観察からそれを確かめることは 容易でないかも知れませんが、彫刻ではその理想的な姿形を表現することができます。
制作:2005年9月、縮尺:1/2 (全長=72cm、翼開長=163cm)
翼幅(翼開長)が翼弦に比べて十分大きく、羽ばたきの周期が循環流の発生・消滅に要する時間に比べて十分大きいとき、羽ばたく翼の各瞬間・各断面で定常・2次元流れが局所的・漸近的に成り立っていると見なして(準定常・2次元流れの理論とよばれている)、説明がなされます。 非定常・3次元流れの翼理論が手に入らないとき、定性的な説明で用いられている方法です。 本来、羽ばたく翼の周りの流れは非定常・3次元流れであって、流線は存在せず、定常流を条件とするベルヌーイの定理などは成り立ちません。 羽ばたきの周期の短い(羽ばたきのすばやい)、短腕裂翼の鳥や短腕扇翼の小型の鳥では、上に述べた議論(準定常・2次元流れの理論)は破綻します。