⑭ ヒヨドリの間歇羽ばたき飛行

 ヒヨドリは、京都では四季を通して身近に見られる活発で賑やかな野鳥ですが、間歇羽ばたき弾道バウンディング飛行する代表的な鳥として知られています。 間歇羽ばたき飛行の包括的な説明は 補足 に与えられています。 間歇羽ばたき弾道バウンディング飛行の最大の特徴は、他の飛行方法と異なり、本質的に推力と慣性だけで飛行し、揚力を必要としていないことです。 これは正にロケットの飛行方法です。 この独特の方法によって、省力・省エネルギーの高速飛行を可能にしていると言えるでしょう。


制作:2007年9月(作品2号)、実寸




 弾道バウンディング飛行の過程では、折り畳んだ翼を胴体の側面につけ、空気抵抗を最小限に抑え、揚力はほとんど発生していない状態で、投げ上げ角度がさほど大きくない放物線を描いて高速度で飛んで行きます。 投げ上げ角度を大きくすると、抗力による減速が問題になり、必要なエネルギーの補給も増加すると考えられます。

 しかし、実際には、全てのヒヨドリが常に弾道バウンディング飛行をしているわけではなく、翼を完全にたたみ込まずに少し広げた状態で飛行している姿もよく見かけます。 補足③で示されたように、もし抗力を増さずに揚力だけを発生させることができれば、エネルギーの補給を増やさずにバウンディング距離を伸ばすことができ、省力・省エネルギーになるのですが、普通 揚力の発生は同時に抗力も発生させ、それは飛行距離を縮め、間歇羽ばたきで補給せねばならないエネルギーも増加します。 翼の広げ方やバウンディングの飛行軌道(投げ上げ角度)を如何に巧く調節して、発生させた揚力で飛行距離を伸ばすかが課題となります。 これはスキーのジャンプ競技での飛行と同様です。 バウンディング飛行する鳥は、それぞれの個性(特に翼の特徴)に合わせて、翼の広げ方や広げる程度を工夫しているように思われます。 スキーのジャンプ競技のジャンパーのようなスタイルが印象的です(これも人が鳥から学んだことですが)。

  一方、バウンディング飛行をつなぐ羽ばたき飛行の過程では、いっぱいに広げた短腕・扇型の翼をやや後上から前下へ円弧を描くように(空気を掻くような仕草で)勢いよく打ち下ろし、続いて、翼をたたみかけるようにして打ち下ろし前の位置まで引き上げる様子が、力の負担をかけずに推力を上げる方法の考察や写真などから推測されます。 吉良幸世氏はこのような引き上げ方を「半たたみ型」と呼び、力の負担なしに自然に行えることを説明されています(自然はともだち-南沢博物誌-、自由学園出版局、2000年、104頁)。 言うまでもなく、周りの空気の流れに従って動かすことは、周りの空気の流れ(運動量)を変えないことで、それは 周りの空気から力を受けないことを意味しています。 このような引き上げ方は、数回羽ばたく間歇羽ばたき飛行とバウンディング飛行の間の敏速かつ滑らかな切替においても都合がよいと考えられます。 背羽の余地がない短腕、雨覆羽/風切羽の小さな面積比は、翼のたたみ・広げに都合よくできていると言えます。

 12枚の羽根から成る長くて機敏に動く尾は、セキレイと同様に、バウンディング領域で最大の前進力を作り出す羽ばたきに必要な姿勢制御に有効であると考えられます。



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