④ すばやく羽ばたく短い翼の小型の鳥の飛行、 準定常・2次元流れの仮定に基づく力のバランスからの発想の転換


 ③ 間歇羽ばたき飛行で述べられたバウンディング飛行の重要性は、単に 省力・省エネルギーな 高速飛行であるということだけではなく、たとえ揚力が作用していなくても、さらに、多少負の揚力が作用していても(重力の見掛けの増加があっても)、また 多少抗力があっても(負の推力が作用していても)、慣性によって、最初の高度から下がることなく ある距離(ある時間)飛行できるということです。

 そこで、前述の間歇羽ばたき飛行についての議論を少し発展させて、連続羽ばたき飛行についても、打ち下ろし行程を運動エネルギー補給飛行(重力に対抗して前方・上方へ押し上げる飛行)、引き上げ行程を弾道~滑空-省力・省エネルギー飛行と考えるならば、言い換えれば、“打ち下ろし行程を下方・後方へ押しやる空気の運動量を最大限にする飛行、引き上げ行程を上方・前方へ押し返す空気の運動量を最小限に抑えて、できれば 下方・後方へ押しやる空気の運動量をある程度保持して、慣性を利用する飛行”と考えるならば、打ち下ろし時間と引き上げ時間に差がある、それぞれの鳥の個性(特に 翼の形状や構造)によって多様に異なる羽ばたき飛行を包括的に理解し、説明することができるでしょう。

  その複雑な多様性は、羽ばたきの各周期の中で起こっている、特に引き上げ行程で起こっている、手首・肘・肩の関節の屈伸、翼幅方向に異なる翼弦・迎角・反りの時間的変化、風切羽の畳み広げ、風切羽の隙間のできる分離などによる、小さな時間尺度での翼の形状・構造や面積の変化にあると考えられます。 そして、それらの複雑な動きは、意識的に行われているのではなく、それぞれの鳥の個性に従って、ほとんど自然体で行われていると考えるのが自然です。 大部分の小型の鳥に特有な短腕・扇型の翼では、風切羽の畳み・広げが重要な役を演じていると考えられます。

 これは、従来の準定常・2次元流れの理論 が破綻する(流れの非定常・3次元性が重要な役割を演じる)、すばやく羽ばたく短い翼の小型の鳥の羽ばたき飛行を説明する重要な手がかりになると思われます。 これを確認するためには、そのような羽ばたき飛翔を適切な視方向から高速度で撮影した映像のスロー分解画像や、そのモデル化に基づいた流体数値解析(翼の動きで起こる翼まわりの空気の動きやそのとき作用する力の大きさや方向を示すこと)が必要になるでしょう。 吉良幸世 氏のNHKの高速撮影フィルムからのスケッチ(自然はともだち 南沢博物誌、自由学園出版局、2000年、104頁)は、そのような先駆的研究として高く評価されるべきでしょう。 最近のNHKの高速度撮影デジタルハイビジョン映像やそのスロー分解画像の研究開発には大きな 期待がよせられます。



 このような(鳥の動作の反作用として鳥に作用する力に、鳥に作用する重力と慣性力を加え、周りの空気の非定常な動きに正確に対応する力学の法則に従った、つまり 力学の出発点に戻った)一般的な考え方(従来の準定常・2次元流れの仮定に基づく力のバランスからの発想の転換)は、小型の鳥に限らず、中型や大型の鳥にも通用するもので、全ての鳥の多様な羽ばたき飛行を(ホバリングや上昇・下降(離陸・着陸)をも含めて)包括的に説明できる基本的な考え方であると言うことができます。 それは、羽ばたく翼が循環流を発生させるかどうかには関わりなく、したがって発生する渦跡の形(例えばリング形とか曳行形とか現れないとか)にも関係なく言えることです。 さらに、このような考え方は、羽ばたき飛行の多様性を(羽ばたきの不均一性や間歇性をも含めて)分類し、それらがどのようにして生じるかを説明するためにも有用です。


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