最近、知床半島の世界自然遺産登録によって、知床の自然を代表するオジロワシの映像が 見られる機会も多くなりました。 流氷の隙間に現れる魚を捕獲して持ち運ぶオジロワシの姿も よく出てきます。
オジロワシが獲物を運んでいるとき、作用する力として、空気がオジロワシに及ぼす力 (オジロワシに作用する揚力・推力・抗力)、つかんだ獲物がオジロワシの足をひっぱる力(獲物 に作用する重力・抗力・慣性力)、オジロワシに作用する重力および慣性力があります。 慣性力は加速しているとき考慮しなければなりません。 地面との摩擦抵抗は空気抵抗に比べて 非常に大きいので、地上を引きずることはまずないでしょう。 このとき、力のバランスから、 空気がオジロワシに及ぼす力、つかんだ獲物がオジロワシの足をひっぱる力、オジロワシに作用 する重力および慣性力の和は常にゼロになっています。 また、モーメントのバランスから、 空気がオジロワシに及ぼす力、獲物が足をひっぱる力、およびオジロワシに作用する慣性力の オジロワシの重心に関するモーメントの和も常にゼロになっています。 力やモーメントのバランス は、オジロワシと獲物からなる2体系として考えることもできます。 獲物をつかんだ脚の傾き は、脚に負担の掛からない方向をとるでしょう。 それゆえ、それは脚がひっぱられる方向にあって、 その作用線は重心を通ると考えられます。
獲物を運んでいるオジロワシは、自身の重力に加えて、獲物の重力だけ大きな揚力を作り 出さねばなりません。 また、自身の抗力に加えて、獲物の抗力だけ大きな推力を作り出さねば なりません。 加速するには、さらに両者の慣性力を加えた分だけ大きな推力が必要です。 オジロワシが揚力や推力を作り出せる体力(筋力)に合わせて、持ち運びできる獲物の大きさは 制限されるでしょう。 持ち運ぶ距離が長くなれば、持続できる体力も必要になります。
制作:2006年6月、縮尺:1/2(雄:全長=80cm、 翼開長=182cm)
翼に作用する揚力が飛行速度の2乗に比例して増大するので、オジロワシが獲物を運ぶためには、 速度を 単独飛行のときよりも大きくしなければならないでしょう。 そのために必要な推力は、 羽ばたき速度(羽ばたきの振幅と振動数)を大きくして得られるでしょう。 オジロワシが獲物を捕らえるまでは、翼を少し窄めて降下し、捕獲後は、翼を全開して、大きく・速く 羽ばたいて上昇して行く様子が見られます。 このとき、翼を強く打ち下ろす行程では、初列風切羽は 大きく上に反り、前縁に近い初列風切羽や小翼羽は分離して隙間のできた状態になるでしょう。 捕獲直後の揚力の追加は、翼で水面を叩く反力(緊急離陸の飛翔)や表面効果(海面すれすれの飛翔) によっても得られると考えられます。 加速上昇して行くとき、獲物に作用する慣性力と抗力は大きく、 脚を引っ張る力の方向は、オジロワシの進行方向に近づくでしょう、私達が荷物を手にぶら下げて 走り出すときのように。