フクロウは、暗夜でも、遠くの物までよく見える大きな目と、消音効果を与える機構や形状の 羽や翼をもっていることが知られています。 消音の仕組みを理解するためには、音の発生および音の 感知に関する知識が必要になります。 音はある特定の場所で発生した圧力の時間的変動が周囲の 空気(圧縮性流体)の中を通って伝播して行く波動現象です。 圧力変動の発生場所(音源)から 離れた所にいる動物にとっては、到達した圧力波(音波)の周波数および強さがその動物の可聴 域にあれば、その圧力波を音として感知することができます。 音波の強さが音源から遠ざかるに 従って、距離のほぼ2乗に逆比例して減衰することに注意すべきです。 狙われている動物は、 鳥の出す音波の強さが小さいほど、鳥が近くまでやって来ないと、その接近を感知することができません。
鳥が音波を発生する原因は、翼の広げ・畳みの動作や羽ばたきに伴って生じる羽の間の 摩擦・接触音、鳥の進行や羽ばたきによって生じる空気の動きなどで、後者は主として乱流や渦の 発生に伴うものです。
フクロウは普通木の枝に止まって、獲物を待ち伏せて捕らえることが知られています。 フクロウ は地上に獲物が現れると、木の枝から地上の獲物まで(多少加速度のある)滑空飛行で近づいて行 きます。 その様子は、宮崎学氏のストロボ写真(フクロウ、平凡社、1989)からも知ることができます。 当然のことながら、滑空飛行では羽ばたきによる羽の間の摩擦・接触音や空気の掻乱音は発生し ません。 フクロウの翼面荷重は比較的小さいので、滑空速度も小さく(最小滑空速度が翼面荷重の 平方根に比例することが示されています)、これは境界層の乱流遷移や剥離の発生を予防するのに 役立っています。 しかし、必要な場合(例えば、獲物が止まり木のすぐ近くに現れた場合など)には、 翼を適当に折り畳んで翼面荷重を大きくして、滑空の速度や角度を大きくすることもできるでしょう。
制作:2005年2月、縮尺:1/2(全長=50cm、翼開長=98cm)
フクロウの翼の前縁初列風切羽の外弁の縁にある櫛状の粗毛、初列風切羽の内弁の縁の細毛、 次列風切羽や尾羽の先端の長い細毛、翼や体の表面を覆う細毛は、弱い乱流境界層を保持し、強い 乱流や剥離渦の発生を、したがって、それらに伴う圧力変動の発生を抑止し、消音効果をもたらすと 考えられています(川のせせらぎの音が、水藻の生育によって消えるように)。 このような機構による 消音効果は、翼の広げ・畳みの動作や羽ばたき飛行においても発揮されることでしょう。 (ステージ1 の話題7.層流境界層、乱流境界層、境界層剥離、飛翔体が受ける抵抗への影響もご覧下さい。)
フクロウは、ワシ・タカ科の猛禽類と同様に、獲物の捕獲や運搬で必要になる、低速飛行で揚力を 高める機構も備えています。 翼を広げたとき腕の靭帯が張り出して翼の反りが大きくなり、それは揚力 を高めるでしょう。 尾を広げて、フラップ効果を作り出すこともできるでしょう。 分離して上に反り隙間 のできた初列風切羽は、翼列効果を作り出し、また、低速飛行で大きくなる誘導抵抗を節減する効果 があると考えられています。 このようなフクロウの低速消音飛行を、特に それらの細毛構造を、彫刻で どのように表現すればよいかは難しい課題です。
制作:2007年2月、縮尺:1/2(作品2号)
フクロウの顔は一見平面的に見えますが、意外にも立体的で、顔の 輪郭を形成している羽毛とともに、頭・胴部の抵抗の節減に都合よくできています。 その特徴は飛行しているとき顕著に現れます。 フクロウの顔は他の鳥と非常に変っているように見えますが、嘴が 下方へ湾曲している以外、頭部骨格の構造や形は他の鳥とさほど違っているようには思われません。 フクロウの変った風貌は顔の輪郭を形成している羽毛の生え方にも関係しているように思われます、 人相が顔ひげの生やし方によって大きく変るように。