鳥は、翼の打ち下ろしによって 体重を越える揚力が得られるならば、離陸することができます。 打ち下ろしによって得られる揚力は 打ち下ろしを始めるときの鳥の飛行速度(運動量)によって異なります。 飛行速度(運動量)が大きいほど、打ち下ろしで得られる揚力も大きくなります。
大型の鳥では、飛行速度(運動量)がゼロのとき 体重を越える揚力が得られないので、体重を越える揚力が得られる速度まで、羽ばたき以外の方法も併用して 加速せねばなりません。 このために、陸上の鳥では地面を蹴って、また、水上の鳥では水面を蹴って、いわゆる 助走をします。 助走以外にも、位置エネルギーを利用して 羽ばたき飛行に必要な飛行速度を得ることができます。 陸上の鳥では坂を駆け下りて、水上の鳥ではうねる波を駆け下りて、木や崖の上の鳥では木や崖から飛び降りて、位置エネルギーを運動エネルギーに変えて、必要な飛行速度を得ることができます。 向かい風は、それと同じ大きさの飛行速度を持つことになります。 例えば、離陸できる飛行速度に近い向かい風に向かえば、助走せずに飛び立つことさえできます。 逆に、追い風は負の飛行速度を与え、離陸を妨げます。 このため、よほどの事情がない限り、鳥は風上に向かって飛び立ちます。
中型の鳥では、翼を後上から前下へ勢いよく打ち下ろして、体重を越える揚力と推力(飛行速度)を作り出しています。 向かい風があれば、離陸はより容易にできます。 それでも体重を超える揚力が得られないときは、足蹴りや位置エネルギーを利用せねばならないでしょう。
小型の鳥では、その小さな体重と大きな加速度を作り出す筋力によって、つねに体重を越える揚力を作り出すことができます。 それゆえ、いつでも、どこからでも、どの方向にも離陸することができます。
鳥が外敵の接近に危険を感じたときなど、地上から安全な高度まで急上昇(緊急離陸)することが必要になります。 上昇の加速度は、ロケットの場合と同様に、鳥に作用する上向きの力から鳥に作用する重力を差し引き、それを鳥の質量で割った値で与えられます。 上向きの力は、翼の打ち下ろしによって単位時間あたり下方へ押しやられる空気の運動量と大きさが等しく方向が反対になりますが、最初の打ち下ろしでは、足蹴りや地面効果の助けも加わります。 緊急離陸では、循環を伴う翼の揚力よりもむしろ抗力や非定常・3次元流れの効果がが主役を演じていると考えられます。 木や崖の上から飛び立つ鳥では、位置エネルギーから運動エネルギーへの変換が加速に利用されますが、緊急離陸では、翼をすぼめ降下角度を大きくして加速を早めることもできるでしょう。
大型の(体重の大きな)鳥では、直接飛び立つことは無理なので、地上や水上の鳥では、すばやい足蹴りで疾走し、羽ばたきの振幅や振動数を上げて推力を増し加速を早める以外に方法はないと思われます。
中型の鳥では、まず、真上まで引き上げた左右の翼を勢いよく開いて下方へ引き込まれる気流を作り出す“叩きと開き”、次いで、翼面積を最大にした翼の強力な打ち下ろし、最後に、翼を真下まで下げて打ち合わせ、左右の翼と広げて下に曲げた尾で囲まれた空気の下方への押し出しによって、大きな上向きの力が作り出されます。 水上の鳥では、最後の行程は左右の翼で水面を勢いよく叩く(水に下向きの運動量を与え、その反作用を利用する)動作に置き換えられます。 このような羽ばたきは筋肉への負担が大きく、数回にとどまるでしょう。 キジのような短腕裂翼の鳥では、抗力や非定常・3次元流れの効果を利用していると見られるすばやい羽ばたきで垂直上方へ急上昇する方法もあります。
小型の鳥では、いつでも、どこからでも、自由に飛び立つことができますが、緊急離陸ではそれらの動作が速く大きくなるでしょう。
この飛行は獲物や巣の材料を運ぶときなどで必要になりますが、基本的には体重の増えた鳥の飛行と言えます。
大型や中型の鳥で、循環流を伴う翼の揚力に依存する場合には、体重と運搬物の重さを加えた値の1/2乗に比例して飛行速度を上げることが必要であり、運搬物や速度の増加に対抗して推力を上げることも必要です。 そのためには、羽ばたきの振動数や振幅を上げなければならないでしょう。 力のバランスを保ち 運搬物の空気抵抗を最小にする持ち方にも工夫が必要です。 さらに速度を上げるためには、高速飛行で述べた方法が必要になります。 一方、飛行速度を上げない場合には、低速飛行で述べた方法が必要になります。 離陸に助走が必要な鳥は、運搬物を足で掴んで飛び立つことはできないでしょう。 離陸には通常以上に強い打ち下ろし、足蹴り、向かい風が要求されます。 降下して来て ある程度の飛行速度を保持しながら獲物を捕まえて上昇して行く場面もよく見かけます。 同じ種の鳥でも、運搬できる重量はそれぞれの鳥の筋力や体力によって異なるでしょうが、運ぶ距離によっても変わってくると思われます。
小型の鳥の場合にも、物を運ぶときには、揚力や推力を上げる必要がありますが、基本的にはいろいろある通常の飛行方法で、動作を速く大振りにすることになると思われます。
鳥が地上(水上)に着陸(着水)するとき、地面(水面)との衝突を避けるために いろいろな方法が用いられています。 例えば、表面効果を利用して地面(水面)すれすれを低速滑空して着地点(着水点)に近づき、少し浮上して運動エネルギーを位置エネルギーに変え、足のバネを使って着地(着水)する方法や、地面(水面)近くまで滑空降下してきて、その速度のままで地上走行(水上滑走)に移り、足でブレーキをかけて停止する方法など、羽ばたきを全く用いない方法もあります。 ここには、羽ばたきを用いて着陸(着水)する方法が分類されています。
大型や中型の鳥では、翼や尾を一杯に広げて抗力を利用したパラシューティング降下をした後、地面(水面)に到達する直前に広げた翼を打ち下ろすか、あるいは 地面(水面)に到達する少し手前から数回羽ばたいて、上向きの力を発生させ 衝突を和らげている場面はよく見かけます。 木の枝や崖の岩棚に投げ上げ着陸する鳥でも、着陸寸前に広げた翼を打ち下ろして後向きの力を発生させ、残った水平方向の速度を打ち消している場面もよく見かけます。 アホウドリやドバトに見られるように、翼を腕のまわりに回転させて、あるいは 小さな外弁/内弁比の初列風切羽根のそれぞれを羽軸のまわりに自然に回転させて、打ち下ろし行程と引き上げ行程における翼あるいは初列風切羽それぞれの迎角を同じ角度に近づけ、推力を相殺減少させ、揚力を連続的に発生させるといった減速羽ばたき飛行の方法も知られています。
小型の鳥にも、低速滑空や投げ上げ後の着陸直前に、羽ばたいてブレーキをかける方法は見られますが、通常の飛行から低速飛行へ、そしてホバリングへ移行した後、羽ばたきの振幅や振動数を下げて着陸するといった方法も見られます。