鳥の飛行の分類にはいろいろな仕様が考えられます。 例えば、鳥の種類に従った分類や、鳥の生息環境に従った分類はこれまでによくなされています。 また、補足⑤での羽ばたき飛行の多様性の原因から考えられるように、翼や風切羽の動きに従った分類、鳥の大きさや翼の形・構造に従った分類、飛行の方法に従った分類などもできます。 黒田長久氏の腕の長さと翼先端の形による分類(現代の鳥類学-日本鳥学会70周年記念-1990、朝倉、鳥類飛翔学-翼型)は非常に参考になります。
ここでは、飛行の方法に従った分類を試みます。 その理由として、1) 力学の視点から見通しのよい分類ができる、2) 鳥の飛行に関する確かな情報が不足している現状においても飛行を包括的に説明できる、3) いろいろな飛行方法のそれぞれが特定の鳥に結びついているのではなく、それぞれの鳥は大気や地・水面の状況や飛行の目的に応じていろいろな飛行方法を用いている、などが挙げられます。
飛行の方法は、まず、羽ばたかずに飛行する方法と羽ばたいて飛行する方法に大別されます。
羽ばたかずに飛行する方法には、循環流を伴う翼の揚力を利用する方法-グライディング、循環流を伴わない翼の抗力を利用する方法-パラシューティング、重力(位置エネルギー)を利用する方法-ダイビング、慣性を利用する方法-バウンディング、などがあります。 前の2つは定常な飛行、後の2つは非定常な飛行として区別できます。 羽ばたかずに飛行する方法は補足⑦に要約されています。
羽ばたいて飛行する方法は、体重と釣合う揚力で一定の高度を維持した 異なる速度(異なる推力)の飛行と、体重と異なる揚力で高度を変える飛行に区別できます。 体重と釣合う揚力での飛行は、さらに、通常の飛行(巡行飛行)、高速飛行(緊急飛行)、低速飛行、空中停止(ホバリング)に区別できます。 一方、体重と異なる揚力での飛行は、鳥が離着陸するときの飛行に対応するもので、通常の離陸、緊急の離陸(急上昇)、物を運ぶ飛行、軟着陸に区別できます。
羽ばたいて飛行する方法のそれぞれは、さらに、鳥の大きさによって、大型の鳥、中型の鳥、小型の鳥に区別するのが 力学的視点から(力学的問題の取扱い方から) 要を得ていると考えられます。
大型の鳥は、羽ばたきの周期が長く、準定常・2次元流れの理論(羽ばたく翼の各瞬間・各断面で定常・2次元流れが局所的・漸近的に成り立っているという仮定の下に簡単化された理論)が成り立つと見なされるので、航空力学の知識を利用して見通しのよい議論ができます。
中型の鳥は、まだ 準定常・2次元流れの理論が 少なくとも定性的には 成り立つと考えられますが、定量的には無理な事例も見られ、また 中型の鳥に特有な飛行の方法(羽ばたきの方法)も知られています。
小型の鳥は、羽ばたきの周期が短く、小さな体重と 大きな加速度を作り出せる筋力によって、揚力(翼の動く方向と直角な方向に作用する力)だけでなく、抗力(翼の動く方向と逆の方向に作用する力)や 揚力・抗力の発生過程で生じる非定常・3次元流れの効果(循環流や流出渦、後流などの発生過程で作り出される 強められた下後方へ向かう気流の効果)なども利用した飛行の方法がとられていると考えられますが、その詳細は、肉眼では見えないすばやい羽ばたきについての情報の不足もあって、まだよく知られていないように思われます。
これらの鳥の大きさによって区別された羽ばたき飛行の方法には、さらに、腕の長さや翼先端の形によって異なる特徴も加わるでしょう。
体重と釣合った揚力での羽ばたき飛行の方法は補足⑧に、体重と異なる揚力での羽ばたき飛行の方法は補足⑨に 要約されています。